症状がなくてもリズム不整がなくても心電図検査を

不整脈を診断するときの注意点とは何ですか?

一般論として一次診療施設での心電図検査の実施頻度ですね。それは少ないなという風に感じております。人では健康診断のレベルでも心電図検査は必須の検査になっていますから、伴侶動物医療でも健康診断あるいは⿇酔前や⼼疾患診断時の検査の⼀環として心電図検査が実施されるべきと考えております。このような背景から私の場合は、心臓病を診断する際、初診の時には心電図検査を必須の検査としています。

例えば失神を主訴に来院した症例。この場合は診察時に既に失神や虚脱の症状がなくても、あるいは聴診でリズム不整がなくても、心電図検査を必須にしています。リズム不整のない不整脈、上室頻拍、心室頻拍、第3度房室ブロックがあるので注意が必要になります。心電図検査をすることで不整脈を検出して、早くその不整脈に対応することで命を救える症例も多くなるのではないかなと考えております。

ACE阻害薬やピモベンダンの治療方針が改訂?

心疾患における来院傾向や最新トピックを教えてください。

来院数が増えてきた疾患とその背景についてですが、診断技術の向上や一次診療現場で対応できる情報がたくさん出てきましたので、その結果、犬よりは猫の心疾患を検出する機会は増えているように感じています。また国内の人気犬種の影響もあって、依然として犬の僧房弁閉鎖不全症を診断する機会は非常に多いです。来院数が減ってきた疾患についてですが、最近は大型犬を診察する機会が減りました。それと共に大型犬で見られる心臓病、拡張型心筋症を診察する機会も大分減りました。ただし、大型犬が集まる病院では循環器疾患を診察する機会もまだコンスタントにありますが。

最近のトピックに関しましては、2009年にACVIMから犬の僧房弁閉鎖不全症のガイドラインが出ていますが、去年に同メンバーによる協議がされ内容が少し改定されるようです。今年か来年にはペーパーになると思います。この新しいガイドライン内ではACE阻害薬ピモベンダン適応が改定される(?)ようなので、そのあたりは注目に値するかなと思っています。

普段のルーチンな臨床検査こそ必ず基本に忠実に

心疾患治療における課題や問題点はありますか?

個人的に感じている一番の問題点は、どの診療科にも共通していると思うのですが、普段ルーチンに実施している臨床検査の精度が担当獣医師によって大きく左右されてしまう、ということがあるんです。もちろん僕自身が常に完璧な診療をしているわけではないのですけれども、例えば、問診や身体検査ひとつとってもちゃんとやっているかどうか。体温・心拍数・体重をちゃんとカルテに書き込んでいるかどうか。胸部X線ではローテーションしていないキレイな撮影をしているかどうか。エコー検査では教科書に書いてある基本断面を忠実に描出してルールに従って計測しているかどうか。この辺りは診断の時にとても大事な要素になるので、そういうところをしっかりやっているかがとても重要になるかと思います。

新しい検査や新しい治療がどんどん出てきている中で、その基本的な部分は絶対に飛ばしてはいけないので、ここに着目して日々の診療を行っていけば診断精度は上がっていくだろうし、診断が正しければいい治療ができるという風に考えられますので、基本を忠実にしっかりやっていきたいなと考えています。

「なぜ心電図検査が必要なの?」が理解できる

このWEBセミナーでの学べることやメッセージを教えてください。

失神の原因は様々です。しかし、このセミナーを通して一次診療施設において失神へどのようにアプローチすればよいか、その一部がご理解いただけると思います。失神を主訴に来院した症例では、診察時に既に症状が認められなくても聴診をして、リズム不整がなくても心電図検査をして、失神の鑑別診断リストを挙げる必要があります。「なぜ心電図検査が必要なのか?」を理解していくことが非常に重要になります。循環器疾患、不整脈により体調不良を訴えている動物と家族のためにも、精度の高い検査、そして治療のことを一緒に考えていきたいと思います。

佐藤 浩Yutaka Sato

獣医総合診療サポート循環器診療科

北里大学獣医学科を卒業。約8年間の研修医〜勤務医経験と5年間の二次診療施設(日本獣医生命科学大学)での研修経験を経て、現在は複数の動物病院との契約の中で循環器疾患を中心に診察している。この仕事スタイルで約10年、基本に忠実で正しい知識とテクニック、そして動物とそのご家族にも余分な負担がかからない内容で診察することをモットーとし、一次診療施設で日々奮闘している。